日本総合歯科学会
理事長  伊藤 孝訓

 樋口勝規前理事長の後を受けて,2017年度より理事長を務めています伊藤孝訓です。

 わが国は社会構造や疾病構造の変化に伴い,国民の医療や健康に対するニーズや価値観が多様化してきました。歯科医療においても同様に医療の多様性を意識しなければならない状況になってきています。歯科医学的根拠をもとに治療することが正しいことで,患者にとって最善の治療であると学んできましたが,患者一人ひとりが持つ様々な多様性についても理解する必要があり,「正しさ」だけでなく「個人の有益さ」についても考慮することが求められています。お互いの立場においては相反するように感じますが,どちらを取るかでなく,医療者と患者は最善となる意思決定するために対話を通じて,理解し合える関係の構築が重要です。医師中心の医療から患者中心の医療,そしてrelationship-centered care (*)の医療の時代に,専門各科の統合ではなく,総合歯科の学問的基盤となる認知行動技能(医療行動科学)の確立を目指す必要があります。患者の抱く価値観を理解し,cure からcareに結びつくことを追求するのが総合歯科の医療と考えます。

 我々は総合歯科医療の本質を究明すべく,2008年に総合歯科協議会を立ち上げ,2011年には日本総合歯科協議会に名称変更し,2013年に念願の日本総合歯科学会へと発展することができました。2015年からは認定医制度を発足させ,認定総合歯科医,指導医および認定研修施設の認定を開始しています。学会設立までは大学における総合歯科診療,診断学分野,臨床研修教育に関連する歯科医師が中心となって活動してきましたが,学会設立以降は大学のみならず多くの開業歯科医師も含めた歯科医療者にご参加いただき,全人的な総合歯科医療の重要性を追求し,実践研鑽を蓄積しています。本学会へのご支援とご協力を,宜しくお願い申し上げます。

 

(*)参考資料

1990年代に入り,医師中心,患者中心を越えた第3の枠組として,relationship-centered care(RCC)という概念が提唱されるようになりました。すべての病気,ケア,および治癒プロセスは,個人と他人との関係において起きます。
RCCは関係の性質と特性がヘルスケアの中心であり,より広範なヘルスケア提供システムであることを認識し,ヘルスケアを概念化するための重要な枠組となります。

    宮田靖志(北海道大学病院)週刊医学新聞(第2956号,2011年12月5日)より